| 思案している私の頭上を、不思議な、文字通りの“千の風”が |
| 吹き始めた。新録音でCDを出しましょうというレコード会社が |
| あらわれたのだ。そうして『千の風になって』というCDシングル |
| (ポニーキャニオン)と写真詩集(講談社)が発売されると、 |
| あっというまにベストセラーになってしまった。 |
| 又つい先日は、『絵本 千の風になって』(理論社)と |
| DVD『千の風になって〜四季〜』とCDアルバム『 |
| 千の風になって〜再生〜』(いずれもポニーキャニオン)が完成し、 |
| 映画化の話も進んでいる。そればかりではない。不思議なパワー |
| を秘めた千の風は、とうとう日本酒にも生まれ変わることになった。 |
| 風が、なぜ酒になるのか?これには少々、説明が必要であろう。 |
| 川上耕君や私と小学校時代の同窓で、今でも親しくおつきあい |
| させていただいている幼馴染の一人に永井ミナさんがいる。 |
| 彼女が長じて結婚した相手は塩川英男さんで、塩川さんは、 |
| 兄の塩川武司さんと共に塩川酒造を経営しているのだった。 |
| 塩川酒造は新潟市内野町にあって、生産量こそ少ないながらも |
| 国内最高水準の日本酒『越の関・極(きわみ)』の醸造元として、 |
| よく知られている。ある日、ミナさんは考えた。 |
| (自分なりの方法で、桂子さんを追悼できないものだろうか・・・〉 |
| ミナさんは夫の英男さんに相談し、英男さんは、社長をしている |
| 兄の武司さんに相談した。 その結果、2004年から |
| 塩川酒造は総力をあげて日本酒『千の風』を作り、 |
| 世に問うことに決めたのだった。まず、この酒のラベルにご注目 |
| いただきたい。私が書いた墨文字のまわりに龍や犬や猿など |
| 十二支の動物たちがうちつどい風に吹かれていかにも気持ち、 |
| よさそうである。さらに化粧箱をおおう淡いブルーは、 |
| “忘れな草”という名の色だという。まことにユニークなこれらの |
| デザインをしてくれたのは、ディスカバージャパンのデザイナー |
| としても高名な鈴木八朗さんである。 |
| 一夕、できたての『千の風』をじっくりと味わってみた。 |
| おいしかった。実においしかった。芳醇でありながらさわやかで、 |
| しかも気品がある。盃を重ねるごとに懐かしい思い出がよみ |
| がえり、しみじみとした気分につつまれた。こんな酒なら、 |
| 天上の桂子さんもきっと喜んでくれるに違いない。 |
| それからもう一つ、忘れてならないことがある。塩川酒造は、 |
| この酒の売り上げ金の一部を、“千の風・基金”に送り、桂子さん |
| がかかわっていた様々な社会貢献活動を応援することに決めた |
| のだという。あたまのさがる話ではないか。そんな話を聞くと、 |
| 一本でも多くこの酒を飲んであげたい気持ちになってくる。 |
| それにしても作者不詳のこの詩は、なぜこれほどまで人々の心を |
| とらえるのだろう。この詩は私達に教えてくれているのだ。 |
| 「死とは終わりではなく、再生すること」だから、 |
| 「いのちとは、永遠に不滅なのである」 |
| もし読者諸兄が大切な人を亡くしたとしようか。そんな時はこんな |
| ふうに考えては如何であろう。〈きっとあの人は今頃、風や鳥や星に |
| 生まれ変わり、私のことをじっと見守っていてくれるに違いない。 |
| だからもう泣くのはやめにしよう。あの人のためにも涙をふいて、 |
| 今日からは明るく生きてゆこう!〉 |
| 『千の風になって』とは、あとに残された人々に、 |
| 悲しみをこえて生きる力、即ち、“勇気と希望を与えてくれる |
奇蹟の詩”だったのである。(二〇〇四年 春)
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